ノーベル化学賞・吉野彰博士は何を成し遂げたのか?

9日、ノーベル化学賞に旭化成名誉フェローの吉野彰博士が受賞されるという発表があった。日本人の受賞は喜ばしいことだが、吉野博士は何を成し遂げ受賞したのか?僕は専門外なので知らなかったが、吉野博士の論文一覧を調べ、その中に日本語で書かれた総合論文があったので、さっそくプリントアウトして目を通した。(「リチウムイオン二次電池の開発と最近の技術動向」日本化学会誌 (2000) No.8, 523-534 吉野彰, 大塚健司, 中島孝之, 小山章, 中條聡)

10ページほどの論文で、手っ取り早く調べるのにはちょうど良い。その論文によると、吉野博士たちは1980代から1990年代にかけて画期的なリチウムイオンバッテリーを開発したということである。では何が画期的であったのか?そこで良いバッテリーとしてのポイントが二つある。それは効率的であること、そして安定性(安全性)が高いこと。簡単に言えば、バッテリー開発とはこれらの追究である。そこで、これらを成し遂げるために、吉野博士たちは画期的な「負電極素材」を発見した。それが「負電極炭素素材」である。負電極を金属ではなく炭素素材を使ったことが画期的であったらしい。これによってブレークスルーを突き破った。

吉野博士らの負電極炭素素材の理論的基盤は、量子化学、特にフロンティア電子理論にあるらしい。フロンティア電子理論と言えば、日本人ならハッと気づくと思う。そう、日本人で初めてノーベル化学賞を受賞した福井謙一博士の理論である。ちなみに、2000年のノーベル化学賞受賞者の白川英樹博士の研究も関係しているらしい。

とは言え、吉野博士の研究の神髄は、理論ではなく実験にある。理論を言うのは易いが、それを実験で実現するのは難い。理論屋の僕にとって、吉野博士のノーベル賞受賞は少しだけ実験科学へ目を向けさせてくれた。今回、吉野博士の論文を読み、実験の見識と面白さを分けさせてくれることになった。

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