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漫画「巨人の星」と、元マラソン日本代表・原裕美子さんの「摂食障害・窃盗症」を考える。

ネット記事で、元マラソン日本代表の原裕美子さんの記事を読んだ。知っている人も多いと思うが、原さんは以前、窃盗を繰り返し何度も逮捕されたことでも有名だ。このことだけを見れば「なぜそんなことをしたのか?」と疑問に思うが、実はそれまでの経緯をたどればマラソンに人生を賭けてきたことが大いに関係していることがわかるのである。

原さんは実業団でマラソンに励み、日本代表にまでなった凄い選手であるが、その一方、チームの監督から極度のダイエットを強要され、1日に何度も体重計に乗せられ少しでも体重が増えていると叱責されるという指導を受けていたという。これだけでも極度のストレスを受けるものだが、そこで原さんがそのストレスから逃れるすべを見出したのが「食べ吐き」と言う手法であった。これは文字通り「食べては吐く」を繰り返すものだ。これなら好きなものを思う存分食べることができ、そして吐き出せば体重も増えない。しかしこれは側からみればとても尋常ではない。そしてこのような方向に進ませる指導はとてもじゃないがまともな指導とは言えない。さらに原さんは合宿中に財布を取り上げられていたという。もうここまで来ればこれは「指導者の犯罪」と言っていいレベルである。そのような状況の中、耐えられなくなった原さんは食べ物を窃盗すると言う方向に走ったという。

このような旧態依然の指導を見た時、僕は漫画「巨人の星」を思い出した。巨人の星の内容が原さんの指導と同じであるわけではないが、スパルタで全く理にかなっていない指導者よがりの指導方法は原さんに対する指導と通じるものがあるのではないか。原さんを摂食障害という病気に追いやり、犯罪者に仕立て上げるような指導は、はっきり言って指導ではなくほぼ犯罪だ。さらにそんな指導で強くなれるはずはなく、仮に良い成績を一時的に挙げたとしてもそんなものは見せかけでしかない。それは巨人の星に感化された昔のプロ野球が証明していると僕は思っている。

数十年前、日本のプロスポーツといえばプロ野球一択であり、プロ野球、特に巨人が大ブームであった。王貞治然り、長嶋茂雄然り、彼らは間違いなく日本のトップ選手であった。しかしアメリカと戦ったらどうか?昔は毎年のように日米野球というものが恒例であったが、日本はメジャーの二流選手に全く歯が立たない。そう、彼らは日本の中でこそ超一流であったが、メジャーの世界では眼中にもなかったのだ。おそらく「世界の王」も、もしメジャー挑戦をしていたら三流選手で終わっていたであろうと思う。そしてその元凶が漫画「巨人の星」なのである。

話は原さんに戻るが、そこにあるのは「勝てば監督の功績、負ければ選手の責任」ということであろう。そのような考えのもとでは、選手は単なる使い捨ての道具でしかないのであろう。そしてそのような歪んだ世界を確立させたのが、漫画「巨人の星」であったと僕は考えている。そしてそのような価値観を打破するには野茂英雄の登場まで待たねばならなかった。そう、野茂英雄は日本のスポーツ観を根底から覆したのである。その証拠に、野茂氏がメジャーで成功してから、メジャーで活躍する日本人選手が次々と誕生した。野茂氏以前の「日本人がメジャーで活躍できるはずがない」と言う当時の常識から考えると隔世の差がある。

今、日本のスポーツは非常に良い方向へ進んでいると僕は感じている。理にかなった指導をし、科学の力を借りてより負担の少ない方法で最大限の力を発揮できるようになってきている。そのような中、大谷翔平のような怪物も日本から誕生した。そう、もう巨人の星の時代は完全に葬り去られたのである。