より深いレベルで!

理論には深さがある。表面的な所から土台となる部分まで、深度によってそれぞれが階層をなしている。最近の技術で言うと、プログラミング言語が典型的な例かもしれない。表面的なプログラミング言語からアセンブリ言語まで、それぞれがそれぞれの階層で役割を果たし、コンピューターをプログラムしている。

数学にも階層が存在する。どのように階層分けするかはそれぞれの数学者によって違ってくるが、おそらく一番深い所にあるのが数理論理学であろう。しかし数理論理学は数学というよりむしろ論理学の範疇にあると言え、一般の数学者にとっては近寄りがたい存在である。

余談であるが、数理論理学の定理であるゲーデルの不完全性定理は何とも不思議で壮大な定理である。不完全性定理は、今風に言えば「数学にはバグがある」とでも言うべきであろうか。数学は完全無欠な体系であると信じられていたのが、数学は不完全であるというのである。不完全性定理のゲーデルの論文の日本語訳は岩波文庫でも出ているが、通常の数学ではなく論理学的な流儀で書かれており、理解するのは簡単ではない。

ゲーデルの不完全性定理が数学の一番深い階層にある理論だとすると、一番表面的な所にあるのは応用数学ということになるであろうか。とは言え、応用数学という言葉を持ち出すのは適当ではないかもしれない。なぜなら応用数学とは理論名ではなく、さらにあまりにも言葉の適用範囲が広く的確に指定できない。

深い階層であればあるほど抽象的であり奥が深い。深い階層の数学には憧れもあるが、手ごわい相手でもある。20世紀の偉大な数学者であるジョン・フォン・ノイマンは、若い頃は基礎的な分野、つまり深い階層で研究しており、晩年はコンピューターのような表面的な階層に移って行ったようである。逆に表面的な階層から深い階層へと移る人もいる。深い階層と表面的な階層のどちらが偉いかという問題ではないが、どちらのテリトリーで研究するにしろ深い階層の存在を意識することは非常に重要であると思う。

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