僕はこれまで典型的な理系人間で、語学に関しては極度の苦手意識しかない。英語でさえ平均的な高校生よりレベルは確実に低いし、大学時代第二外国語として取っていたフランス語に限っては、出席だけ取って教室の後ろの扉から逃げ出す有り様だった。今でもなぜフランス語の単位が取れたのか不思議である。
英語が苦手だと言っても物理や数学の論文や専門書は英語で書かれているので、専門の英語だけは何とかなっている。科学論文と言うのは世界中のあらゆる人、つまり英語が母国語ではないインド人や中国人、そしてもちろん日本人の研究者も読むので、誰が読んでもはっきりと意図が伝わるように極度に簡単な英文法で書かれているので僕でも読めるのだ。ただし専門用語は覚えなければならないが、大学院生時代に洋書を読み込んだので用語はむしろばっちりである。
最近、あらゆる分野に対して興味が湧いている。数学と物理は専門なので言うまでもないが、生物学、化学、地学などのあらゆる科学分野をはじめ、日本史や世界史や経済学などにも最近は取り組んでいる。数理物理の研究がなかなか進まない時に、世界史などの教科書を読むとちょっとした気分転換にもなる。そして最後に残ったのが語学だ。
昔は英文を見るだけで蕁麻疹が出そうになるくらい苦手意識があり、そして言うまでもなく大嫌いであったが、最近あらゆる分野に取り組んでいくうちに何だか語学にも取り組みたい気分になってきたのだ。もちろん語学を専門にしている研究者のようにはなれないとは思うが、少なくとも苦手意識をなくし得意分野にしたいと思うようになった。昔の数学の論文の中には、フランス語やドイツ語で書かれた有名な重要論文があり、それらの論文を読むことができれば非常に面白くなるのではと思うのである。大数学者、岡潔博士の書かれた一連の重要論文は、なぜかフランス語で書かれていたりする。そして代数幾何学のバイブル、グロタンディークの書いたEGAはもちろんフランス語である。
人間と言うものは進化するものだと僕は思っている。いや、子供の頃より大人の自分の方が進化していないと恥ずかしい。しかし現実は惰性で生きている人間も多いように感じる。僕がこのように語学に取り組もうと考えるようになったことも一つの進化である。そしてその進化は専門の研究にも好影響を与えるに違いない。プロ野球選手ならば、肉体の衰えによって遅くとも40代で引退するのが普通である。しかし人間の脳は進化する。人によっては老化する人も多いではあろうが、40代になっても進化し続ける人間もいることを僕は示したいと思っている。そのうちの一つの取り組みとして、英語やフランス語などの語学を今からでも究めたいと考えている。